2019/06/21
新型のト書きについて
皆様、こんにちは。 外苑前駅3番出口徒歩20秒、特許業務法人 IPXの奥村 光平(オクムラ コウヘイ)です。代表弁理士COO/CTOとして、CEOの押谷とともに当所IPXを経営しています。 IPXでは、"From XXTech to Academic Study" をポリシーに、創業当初より得意としていたベンチャー系テクノロジーから、大学・研究機関等での高度な専門性を必要とする学術研究に至るまで、多様な経歴を有するスタッフが、ソフトウェア・ICT分野(特に、AI, IoT,VR/AR, CV, 画像処理, ロボティクス, 無線通信, 制御等)の特許事案を、迅速かつ丁寧に対応いたします。「品質」と「スピード」とは徹底化されたIPX独自の3つのメソッドに基づくことで両立いたします(爆速知財サービス)。 ツイッターでも少しつぶやいたのですが、 ちょうどサンプルもあるので記事にしました。 ここ数年、何箇所かの事務所で「新型のト書き」(正しい名前があるなら教えてほしいです。)を 使っているのを見かけます。 事務所名は挙げませんが、公報を漁っているとたまに見かけますね。 私も別の弁理士から教わって目からウロコとなりました。 「10数年、係り受けや明確性等に悩んだ挙げ句、この新型のト書きが結局最善です。」と。 ここ2年くらいは通常のト書きではなく、新型のト書きでクレームを書いています。 弊所は新しい事務所ですので、出願公開されているものが少なく、 また、お客様を晒すのもいかがのものから、記事にしづらかったのですが、 今回、特許の鉄人でサンプルを書いたので、 この際皆様にも紹介できればと思います。 これです。 【請求項1】 プログラムであって、コンピュータを情報処理装置として機能させ、 前記情報処理装置は、受付部と、記憶部と、画像解析部と、判定部とを備え、 前記受付部は、画像データを受付可能に構成され、 前記記憶部は、危険度情報データベースを記憶し、ここで前記危険度情報データベースは、ペットの種類を示す情報と、物体、場所又は状況を示す情報と、前記ペットにとっての危険性を示す情報とを紐づけて記憶したもので、 前記画像解析部は、前記受付部が受け付けた前記画像データに含まれる物体、場所又は状況を解析し、 前記判定部は、前記危険度情報データベースに基づいて、前記画像解析部に解析された物体、場所又は状況のペットにとっての危険性を判定可能に構成される、 プログラム。 このクレームの良し悪しは今回の論点ではないのでさておき、 同じ内容のクレームを普通のト書きで書くと、以下の通り。 【請求項1】 コンピュータを、 画像データを受け付け可能に構成される受付部と、 ペットの種類を示す情報と、物体、場所又は状況を示す情報と、前記ペットにとっての危険性を示す情報とを紐づけて記憶した危険度情報データベースを記憶する記憶部と、 前記受付部が受け付けた前記画像データに含まれる物体、場所又は状況を解析する解析部と、 前記危険度情報データベースに基づいて、前記画像解析部に解析された物体、場所又は状況のペットにとっての危険性を判定可能に構成される判定部と、 を備える情報処理装置として機能させる、 プログラム。 前者が新型のト書きで、後者が普通のト書きです。 まぁこのくらいの長さであれば、そこまで抵抗もないのですが、 1つの構成要素を修飾する要素がとても長くなると、 可読性、明確性、係り受けの観点で非常に苦労を強いられます。 その際に、この書き方ですと、途中で文を切ってつないだりすることで、可読性を高めることができます。 そもそも人間は可読性の高い文章の方が作りやすいので、 結局作る側も楽で、読む側も楽で、誰も損していないのです。 英文では、構成要素の途中にwhereinや分詞構文で切って、 補足することはよくあると思いますが、 日本のト書きだと、それができないため、 前置修飾節がアホほど長くなって読みにくいということもありますが、 この新型のト書きだとこのしんどさが回避できますよ。 今回の特許の鉄人のクレームでも、 「前記記憶部は、危険度情報データベースを記憶し、ここで前記危険度情報データベースは、ペットの種類を示す情報と、物体、場所又は状況を示す情報と、前記ペットにとっての危険性を示す情報とを紐づけて記憶したもので、」 危険度情報データベースのところを区切っています。 この新型のト書きが気に入ったというお客様もいらっしゃいますし、 大手企業に営業をした際に、うちの他の事務所も同じ書き方ですよ!と言われたこともあります。 まだ、主流は普通のト書きだとは思うのですが、 今後、業界的にはもっと普及してほしい書き方だと思っています。 スポンサーサイト
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コメント
No title
ハードウェアの必須要件がプロセッサとメモリであることを考えると、新型のト書きとして以下のような書き方もアリかなと思います。
【請求項1】
プログラムであって、コンピュータを情報処理装置として機能させ、
前記情報処理装置は、プロセッサと、記憶部とを備え、
前記記憶部は、危険度情報データベースを記憶し、前記危険度情報データベースは、ペットの種類を示す情報と、物体、場所又は状況を示す情報と、前記ペットにとっての危険性を示す情報とを紐づけて記憶したものであり、
前記プロセッサは、
画像データを受け付け、
受け付けた前記画像データに含まれる物体、場所又は状況を解析し、
前記記憶部に記憶される前記危険度情報データベースに基づいて、解析された物体、場所又は状況のペットにとっての危険性を判定する、
プログラム。
2019/06/21 16:41 by 加島 URL 編集
ありがとうございます。
おっしゃる通り、新型ト書きは、
元々英語圏(というか米国)クレームとの調和・互換性から生まれているようです。
https://system.jpaa.or.jp/patents_files_old/201304/jpaapatent201304_054-058.pdf
このトレンドの出典と思われる論文です。
この論文が6年前に出て、4年前にも続報が出ているので、このトレンドの時期にも近いかなと思っています。
実際に私が、普通のト書きではなく新型のト書きで書き始めたのは、約2年前です。
IPXを立ち上げてからは、ずっとこちらで書いています。
そして、素敵なクレームアップをありがとうございます。
アメリカを意識されたいい感じのクレームだと思います。
そして、イベントの副次的な効果として
こうした記事のきっかけをくださった加島先生に改めて感謝を申し上げます。
ずっと前から記事にしたいと思っていたのですが、
実際に出願しているものを晒すのもどうなのかなぁと思っていて、
かといって、なんか適当に作るのもどうかと思っていて。
本当の出願ではないけど、
でもちゃんと意味を持って作ったクレームがサンプルとして使えるのは
記事を書きたかった身としては本当にありがたいです。
第二回目も期待してます~★
> 新型のト書きが最近多くなっているのは、従来型のト書き(日本の伝統的なソフトウェア関連発明のクレームの書き方)だと欧米ではソフトウェア構成とハードウェア構成が混在しているとみなされ、ソフトウェア構成とハードウェア構成がちゃんと分けて書かれているクレームに見慣れた欧米の審査官が大きな違和感を感じるというのが背景にあるかと思います。
> ハードウェアの必須要件がプロセッサとメモリであることを考えると、新型のト書きとして以下のような書き方もアリかなと思います。
>
> 【請求項1】
> プログラムであって、コンピュータを情報処理装置として機能させ、
> 前記情報処理装置は、プロセッサと、記憶部とを備え、
> 前記記憶部は、危険度情報データベースを記憶し、前記危険度情報データベースは、ペットの種類を示す情報と、物体、場所又は状況を示す情報と、前記ペットにとっての危険性を示す情報とを紐づけて記憶したものであり、
> 前記プロセッサは、
> 画像データを受け付け、
> 受け付けた前記画像データに含まれる物体、場所又は状況を解析し、
> 前記記憶部に記憶される前記危険度情報データベースに基づいて、解析された物体、場所又は状況のペットにとっての危険性を判定する、
> プログラム。
2019/06/23 08:12 by 奥村 光平 URL 編集